投稿者:きみくら編集部

静岡県浜松市天竜区大川。入念に仕込みを終えたそのお茶が封印されたずっしり重い茶箱を肩に担ぎ、茶師たちが向かう山深い道のその先に、相津トンネルはひっそりと佇んでいます。山奥のトンネルに続く坂道は車両が通れないため、20㎏近い茶箱を肩に担いで運び込みます。

かつてこの天竜地区と長野県伊那地方を結ぶ鉄道路線として佐久間線が計画されたことがありました。 しかし工事半ばで開通することが無かったその幻の路線は、人の手が作り出した産物にもかかわらずいつしかひっそりと自然の一部になっていました。
茶師たちの探究心が産んだ「秘壷蔵」

この天然の貯蔵庫を利用してお茶を熟成してみたら、いったい味にどんな変化が生まれるのだろう?
茶師たちのそんな探究心から深蒸し茶「秘壷蔵」のトンネル保管は始まったのでした。

茶師たちは長年の経験から熟成に合う茶葉と火入れを見極めます。旨味、コク、渋みのバランスが良いとされる八十八夜頃に摘み採った新茶の中で秘壷蔵に合う一番茶の新芽を選りすぐり、後熟の味を計算しながら火入れします。
自然の中で夏を越す
細い石段を登りきった先で相津トンネルの趣のある大きな扉が迎えてくれます。振動がなく、年間を通じて一定の温度と湿度に保たれたトンネル内の環境は貯蔵に最適です。
そのトンネルでお茶はまろやかに熟成し、茶箱が開かれる日を待ちます。

熟成茶の歴史

熟成茶の起源は、江戸時代にまで遡ります。
お茶通として知られた徳川家康公は、春に摘んだ一番茶を茶壷に入れて井川上流の山奥に運ばせ夏の間冷涼な高地で大切に保管し、 晩秋になるとそのお茶を駿府城へと運ばせ、熟成したお茶の深い味わいを愛したといわれています。
低温貯蔵でひと夏じっくり寝かせたお茶は、新茶の青々しい新鮮さとはまた違う、まろやかでコクのある芳醇なお茶に生まれ変わったのでした。
今年のトンネル熟成茶
さて、今年も秋が来てトンネル熟成茶「秘壷蔵」のお目見えです。
天然の貯蔵庫の中でゆるやかな時間を過ごし、熟成の時を迎えた今年の秘壷蔵が季節を超えていま茶師たちの手元に帰ってきました。時の移ろいを経て旨味が凝縮され、より一層の深みと奥行きを増したきみくらの秋を代表するお茶の味わいを是非ご賞味ください。