文:丸山製茶株式会社 茶師/髙橋嘉伸

「あなたにとって新茶とは——」
この質問は意外と聞かれることがあるのですが、その度に(あと何回だろう?)そう考えてしまいます。
私は正直この業界に入るまでお茶に全く興味がありませんでした。ですから、ここまでお茶のことが好きになるなんて無論考えもしませんでした。この業界に入ってお茶の味を知り、文化を学び、全国の茶産地へ飛び回り、そこで出会う生産者や同業者の方々の熱い思いや気持ちに触れることで、いつの間にか私にとってお茶は心惹かれる大切な存在へと変化していきました。
新茶を最大限に活かす
茶樹は冬の休眠を終え、蓄えていた養分を目一杯使って新芽を吹き出します。その新芽には養分が十分に乗りうま味のある、一年で一番美味しい茶葉になります。
生産者の方々はそこに照準を合わせ、一年をかけて栽培、管理を行います。

お茶の香り成分としては、茶が本来持つ青葉アルコールやリナロールなどの青々しくさわやかな香りや、ピラジンと呼ばれる焙煎の際に生まれる香ばしい香りなど、数多くの成分が存在しますが、前者の香りは飛びやすく時間が経つにつれ減少してしまいます。ですから新茶時期の仕上げはそこが最大限活きるように、火入れは優しく、焙煎香を抑え茶葉本来の香りが楽しめるように仕上げています。(ちなみにこれは私が入社当時より先輩茶師から教わってきたことです)焙煎香を抑えるという事は、原料がいかに良いものであるかが重要になります。
よい原料とは——

香り、味わいの良い原料は畑や生産者の荒茶工場での製造方法により決まります。そのため新茶時期は生産者の方々とのコミュニケーションはより濃密になります。
荒茶(注1)の出来上がりで気になるところの確認や、摘採されたお茶の様子を知るために電話はもちろんのこと、毎日仕事終わりに数件、生産者を訪ね茶工場へ立ち寄り、そこでルーティンのごとく当日採れた生葉を確認し、蒸し機から製造ラインに沿って出来具合を確認していきます。日々刻々と生葉が変化するため、製造についての方向性確認や、摘採の進み具合など、納得のいく仕入れのためにはこうした打合せなどがとても重要と考え取り組んでいます。
茶葉との一期一会

そこに並んだ茶葉は生産者によって多種多様で、茶葉に触れたり味や香りを感じることで、生産者の方がどのような思いでその茶を作ったのかはっきりと伝わってきます。私は見本茶の中で光る茶葉があればその畑まで足を運びます。まさに一期一会。茶葉は毎年、毎日変化しています。
「見る」「感じる」こと

あと何回だろう?
冒頭の、あと何回だろう?というのは、この貴重な新茶時期を「私が生涯であと何回経験できるのだろうか?」という事です。
丹精込めて作られた出来立ての茶葉を毎日見ることができ、その生産現場に足を運び生で体験できるのはこの「新茶時期」しかなく、茶師として成長できる絶好の機会だと実感しています。それを最大限に活かし、勉強させてもらいながら一年のスタートを切ります。私にとっていつしか新茶は一年間の軸になっており、ついついあと何回と数を数えてしまうのかもしれません。

2022年 ——
是非、今年はその時にしか味わう事の出来ない「香り」を意識して新茶を楽しんでみてください。
2022年新茶ご予約受付がはじまりました
- 吟撰大はしり【5/1-5/5頃 仕上り予定】味は平地、香りは山間地、茶師のブレンド技術が産地の良さを磨く。一番摘みの新茶も採れる場所によってそのはじまりは異なります。味わいの良い平地のはしり新茶が揃ったあと、山間地のミル芽のお茶が採れるのを待ちます。山間地で育ったお茶は香り豊かで品の良さが特徴。時間をかけてでも納得のいくお茶の組み合わせができるまで、一切の妥協をせずに厳選したそれぞれの新茶。産地の良さがブレンドの技術によって磨かれた、茶師の腕が光る逸品です。» 商品ページをみる
- 大はしり【4/29-5/2頃 仕上り予定】きみくらの新茶の中で一番に出来上がる大はしり。「走り」の名前のとおり掛川地域で最も早く芽吹いたミル芽を丁寧に摘み取り仕上げています。黄金色の清々しく美しい新芽は旬を先取りした繊細な味わいで、華やかな甘みと香りが口いっぱいにひろがります。江戸の頃より「初物を食べると、75日長生き出来る」ということわざがあるように希少な新茶をいち早く味わう、粋なあなたにお届けします。» 商品ページをみる